ステンドグラスのデザインと歴史
光を楽しむ心のゆとりから生まれたステンドグラスの様々なデザインとその歴史をご紹介いたします。
長い歴史の中でステンドグラスは単に光を取り入れるための窓としてだけではなく、宗教の教えを伝える手段として、芸術の素材としてその役割を担ってきました。採光を得るための窓から、光を崇め、光を楽しむ心のゆとりから様々なデザインのステンドグラスが生まれました。
アール・ヌーヴォー
19世紀から20世紀初頭にかけフランスを中心にヨーロッパで流行した芸術様式で、ウィリアム・モリスが創始したアーツ・アンド・クラフト運動が源泉となり、当時流行したジャポニズムも大きな原動力の一つとなりました。フランス語で「新しい芸術」を意味し、イギリスでは「モダンスタイル」と呼ばれました。花、木、樹木、蔦などの植物や女性をモチーフとした、流れるような優美な自由曲線がデザインの特徴です。「アール・ヌーヴォー」という名称は、日本美術にも縁のあるパリの美術商サミュエル・ビングの店の名前「メゾンド・ドゥ・ラール・ヌーヴォー」(Maison de l`Art Nouveau)に由来します。
アール・デコ
第一次世界大戦(1914年~1918年)から1930年にかけ、ヨーロッパおよびアメリカ(ニューヨーク)で流行した装飾様式です。1925年に開催された「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」(Exposition Internationale des Arts Decoratifs et Industriels modernes)の略称をアール・デコ博と言い、それにちなみアール・デコと呼ばれています。自由曲線を主としていたアール・ヌーヴォーがコスト高だったのに対し、アール・デコはシンメトリー(左右対称デザイン)の流線型や直線的な幾何学模様が特徴です。自動車・飛行機や各種の工業製品、近代的都市生活といったものが生まれた時代への移り変わりに伴い、大量生産とデザインの調和を考え生まれたデザインで、機能的でありながらも装飾美を兼ね備えた様式と言えます。
絵付け
ステンドグラスとは「絵付けをしたガラス」「色を付けたガラス」が本来の意味です。「グリザイユ」「エマイユ」と呼ばれるガラス専用の顔料を用いて、宗教画を初め幾何学模様や唐草模様などを描き、炉で約600度まで熱して焼付けたガラスの総称をステンドガラスと著していました。筆を使うことで滑らかな曲線と微妙な濃淡をつけて描くことができ、優れた色彩と立体感のある絵が光を受け、室内に神秘的な空間を作り出してくれます。14世紀に入ると、それまで主に使われてきた教会だけでなく、宮殿、城館、住宅などに使用されはじめ、モチーフも紋章や花、小鳥など生き生きと動きのある華麗なものに変化していきます。19世紀後半までに制作された絵付けのステンドグラスは、そのほとんどが貴族や領主の屋敷など当時の上流階級の建物に使われていたもので、英国の伝統と品格が感じられる最上級の品々であるといえます。
ロンデル
ロンデルとはクラウン法と呼ばれる製造法で作られた板ガラスで、ワイングラスの底の様な丸い円盤状のガラスです。製造法からクラウンガラス、またはその形からブルズアイ(牛の目ガラス)とも呼ばれています。クラウン法は4~7世紀にシチリア人が発明した板ガラスの製造方法で、吹きガラス技法を基に遠心力を利用し、円盤状の平らなガラスを作ることに成功しました。当時大きな板ガラスを作る技術がなく、小さなロンデルを鉛の枠でつなぎ合わせ、一枚の窓ガラスとしていました。その製造法で作られたガラスの真ん中にある「ポンテ」と呼ばれる出っ張りが最大の特徴です。ポンテから外側に向け滑らかに薄くなっていることで、窓から入る光が和らげられ、ポンテ跡によって思いがけない屈折を生み、室内に表情豊かな光の演出をもたらしてくれます。透かした景色がゆらゆらと歪んで見えるロンデルガラスはその美しさとともに中世の歴史が感じられます。
無色
色彩の組み合わせで模様を作り出すデザインとは異なり、ガラスのテクスチャー(質感)によって光の屈折効果を利用した光色が魅力です。シンプルながらも奥深く、飽きのこない無色のステンドグラスは、洋室だけでなく和室にも適応します。なかでも柄のないクリアーガラスとケイム(鉛線)のパターンのみで構成された物は、比較的古い邸宅にはめ込まれていることが多く、花柄や幾何学模様のステンドグラスが流行する以前の19世紀後半頃までは図柄の入っていないLeaded window(斜め格子の窓)が多くの窓に使われていたようです。
花柄
冬の日照時間が短い英国では、窓から差し込む光を楽しむ工夫としてステンドグラスがイギリス全土に広く流行しました。さまざまなパターンの中でも当時一番流行したのはバラの花や、「fleur‐de‐lis」と呼ばれるユリの花のデザイン。1920年代に入ると、これらの花柄ステンドグラスが当時の定番としてタウンハウスに使われ幅広く普及しました。日本で人気のアンティークステンドグラスはこの時代のものが多く、2枚、3枚と同柄がそろうのもこの時代ならでは。シンプルに並べて、アンティークガラス独特の柔らかな雰囲気を堪能してみてはいかがでしょうか。